おはこんばんにちは
がくちょうです。
今日は、スプラトゥーンに足りないものは何なのか?について考察します。
私は2019年に「スプラトゥーンをスポーツに変えていく」という大雑把なミッションを掲げて、アタリメ団というチームを設立しました。
それから2年間が経過し、メンバーは200名を超えるまでになりました。
少しずつ変更を加えてきたアタリメ団ですが、この2年間でやっと私の中で
- 何がしたいのか
- 何が必要か
などについて整理できてきたので、それらをまとめていきます。
スプラトゥーンに足りないものは何か
私はアタリメ団の設立当初から、
スプラトゥーンをスポーツにしたい
という風に考えて行動してきました。
その原点には、私が起業家としてEスポーツというジャンルに物凄いポテンシャルを感じているという認識があります。
これはスプラトゥーンに限らずですが、通信環境やディスコードなどのプラットフォームの普及によって、ゲームを「スポーツ」と同じように楽しめる環境が整ってきています。
日本国内だけでも、サッカーや野球などの市場規模はプロリーグだけで1000億~2000億程度あり、周辺市場を含めると1兆を軽く超えます。
オンライン化・デバイスの進化・長寿命化など、社会全体の流れを考えても、様々な要因が「Eスポーツ市場」を後押しするのは明確です。
そして何より、小学校時代からサッカーやラクロスなどのスポーツに取り組んできた自分自身が、スプラトゥーンに出会ってから夢中になって何千時間も投資している。
子供がいても、自宅ですぐにチームスポーツに参加できるEスポーツは、明らかにまだまだ広い需要があります。
だがしかし。
だがしかしッッ!!です。
スプラトゥーンには明らかに、スポーツ市場として発展するには足りないものがあります。
それは何か?
他のスポーツにあって、スプラトゥーンにないものは何か?
それを考え、模索し、ひたすらテストしてきた2年間でした。
現段階での、私の結論を書きます。
結論:チームと目標
先に言うと、スポーツには個人競技とチーム競技があります。
で、スプラトゥーンはスポーツに当てはめるなら、「チームスポーツ」だと思っています。(というより、チームスポーツにできるからこそイノベーションであり、他の市場規模の大きいチームスポーツがリプレイスできる可能性があります。)
では他のチームスポーツのユーザー体験に当たり前のようにあって、スプラトゥーンにはないものは何か?
それが、
チームで目標に向けて真剣に努力するという体験
だと私は仮説を立てました。
業界全体で考えれば、
- 技術体系
- リーグやクラブなどのエコシステム
- 賞金やプロ選手の存在
など色々とあり、最初の1年間はそういったアプローチをしていこうとしたのですが、その手前にそもそもの
チームスポーツとしてのユーザー体験
という根本的なものが、業界全体で完全に欠如している段階だと気づきました。
チームスポーツとして「広がっていく」ために必要なものではなく、そもそも「チームスポーツとして体験すること」自体が必要な時期だったのです。
まずは、スプラトゥーンを通じてチームスポーツとしての体験をしている人口自体を増やさなくてはいけません。
そうやって、チームスポーツとしてスプラトゥーンをやっている人口数がどんどん増えていった先に、自然発生的に
- 技術や戦術の指導体系や指導システム
- リーグやクラブチームなどの興行としての体制
なども需要が増えていくでしょう。
それに気づいてからは、
「チームで目標に向けて真剣に努力するという体験」を「チームスポーツとしてのユーザー体験」だと定義し、
そういったユーザー体験をどうやってスプラトゥーンプレイヤー達に提供するか?
という思考でサービスを設計してきました。
スプラトゥーン界に足りないもの
ではなぜ、現状では「チームスポーツとしてのユーザー体験」がスプラトゥーン界に普及していないのでしょうか?
例えばサッカーというチームスポーツであれば、中学校で部活に所属したり、近所の草サッカーチームに入ればすぐに体験できるようなユーザー体験が、スプラトゥーン界だとなぜこうも難しくなってしまうのでしょうか。
逆に言えば、それこそが業界が移植される時に最も必要な要素であり、今後のEスポーツの発展に不可欠なものであるという事になります。
仮説1:チームを組もうと思わせる機会
まず思いつくのは、
チームが組める機会
自体が少ないことです。
確かに私も最初の頃はガチマッチだけしかやっていませんでした。
しかし、アタリメ団で200名を超えるメンバーと接するうちに、実は様々なコミュニティや社会人チームなどが活動しており、探せば比較的簡単にそういう場所にアクセスできることを知りました。
つまり、「チームが組める機会自体は希少ではない」のです。
ではなぜ、それでもチームを組む人口が少ないか?
そう考えた時に、
チーム戦でも個人参加できてしまう上に、レーティングによって個人目標を明確にしやすいガチマッチの存在が、「チームを組もう」という思考や行動を制限してしまっていた
のではないかと仮説を立てました。
逆に言えば、これがEスポーツの特色でもあるわけです。
サッカーをスポーツとしてやろうと思った時に、たった1人で1500時間もボールを蹴り続ける人はいないでしょう。でも、Eスポーツならそれが可能なのです。(実際に私は1500時間まで1人でやってました)
「最初からチームに所属しなくても疑似的にチームプレイに参加でき、個人目標を持って何百時間もプレイすることができる」
というEスポーツのメリットは、逆に
「継続的なチームを組んで目標に向けて努力するというチームスポーツへの思考や取り組みを妨げる」
というデメリットにも繋がっています。
さらに、この構造は
本質的にはチーム競技なのに、個人でプレイするのが主流になっている
という矛盾を生み、
戦略的な競技にも関わらず連携の取れない即席チームでのプレイ時間が大部分を占めるため、必然的にストレスが大きくなる
という状況に繋がっています。
チーム競技である以上、ガチマッチのような個人参加のルールは本来は「チュートリアル」「お試しプレイ」程度で終了するべきであり、プレイ時間の大半を占めるような状況になってはいけません。
ある程度ガチマッチをプレイした後には、ゲームの中に「クラン」などの小規模~大規模な所属先が用意されており、そこに誘導してチーム戦をやりやすくしてあげる必要があります。(他のEスポーツ系タイトルの多くがそういった導線が存在しています)
しかし、スプラトゥーンにはそういった導線が存在しないため、ユーザーの思考に「チームを組んで意思疎通しながらプレイする」という概念自体が欠如しているわけです。
さらに、有名な実況者なども動画の9割9分以上が「ガチマッチ」の配信を行っていることが拍車をかけています。
チームを物理的に組める機会というよりは、
チームを組んで意思疎通しながらプレイすると、楽しいよ!(というか、そっちがスプラトゥーンというゲームの本当の楽しみ方だよ!)
という事を、伝えていく存在自体が希少なのです。
こういった存在が増えていかないと、
- 上手くなるというのはガチマッチのウデマエが上がること
- スプラトゥーンは1人でやるゲーム
という考え方がいつまでも変わっていきません。
仮説2:チームのモチベーションを高める仕組み
では、「チームスポーツとしての楽しさ」を伝えていく存在が増えれば、問題は解決するでしょうか。
少なくともそういった存在が増えれば、同時に「チームを組んでプレイしてみたいな」と思う人も増えるでしょう。
そして、少なからず存在しているスプラトゥーンコミュニティなどのメンバー募集を見つけて、そこに加入すれば「リーグマッチ」などのチームプレイを体験することはできそうです。
ではこれで、
「チームで目標に向けて真剣に努力するという体験」
はクリアできるでしょうか?
もちろんNOです。
これだけでは、「チームでスプラトゥーンをプレイする体験」であり、まだ「目標に向けて真剣に努力する」という部分が達成できていません。
次は、「どうすれば目標に向けて真剣に努力するようになるか」を考えていく必要があります。
モチベーション理論の応用
この先の話は、簡単に言ってしまえば「人のモチベーションをどうやって上げるか」という話です。
そして、そのジャンルには様々な先達が研究を繰り返してきた「モチベーション理論」が存在するため、その理論を応用していくのが効率が良いと私は判断しました。
目標設定理論の応用
モチベーション理論は非常に多岐にわたりますが、最も採用しやすいものが「目標設定理論」です。
これは簡単に言えば
- 目標が適度に困難であること
- 目標が数値や期間などで具体化されていること
- 自分たち自身で設定した目標であること
- 目標の達成度や進捗がフィードバックされること
この4つを満たした目標=質の高い目標を設定することによって、ユーザーの「自己効力感」が上がり、モチベーションが高まるという考え方です。
言い換えれば、スプラトゥーン界には
チームで目指せる質の高い目標が存在していないのではないか
という風に仮説を立てられます。
例えば、
リーグマッチの計測結果(リーグパワー)を目標にする
とした場合には、
- 適度に困難な数値は計測を繰り返すうちに自己設定できる
- 自分たち自身で決められる
- 達成度や進捗がフィードバックされる
という3つは満たせますが、
- いつまでにどんな数値を達成するべきと設定するか
という期間の具体化が行われません。
いつでも挑戦でき、いつ達成しても良いし何回失敗しても良いという「期限性のない目標」には、人間は真剣になれないという事になります。
期待理論
次に期待理論を応用します。
これは簡単に言うと
- 現実的な量の努力によって
- 獲得できそうと感じる報酬が
- 十分に魅力的である
っという3つの要件を満たすと、モチベーションが上がるという考え方です。
先ほどの目標設定理論と違う部分は、「報酬の魅力」という概念です。
これは言い換えると、スプラトゥーン界には
チームで目指せる魅力的な報酬のある目標が存在していないのではないか
という風に仮説を立てられます。
先ほどのリーグマッチの計測結果(リーグパワー)を目標にするという話だと、
そもそもリーグパワーの自己ベストを更新した時に、十分魅力的な報酬が発生するかどうか
が重要になります。
残念ながら、これもただの自己満足で終わるだけの場合が多いでしょう。
最近では「ツキイチリーグマッチ」というイベントが開催されていたりしますが、あれだと上位3チームに入れる可能性があるチーム以外には「適度な困難ではない」「現実的な量の努力で獲得できない報酬である」という風になり、「報酬の魅力は高いが目標の質が低い」という状態になってしまっています。
人間関係理論の応用
最後に、人間関係理論を応用します。
これは簡単に言うと、
メンバー間に芽生えた仲間意識
によってモチベーションが上がるという考え方です。
この理論は、特にチーム競技であるスプラトゥーンには強く影響してくる要素なので、鑑みる必要がありそうです。
これは言い換えると、スプラトゥーン界には
このチームでどうしても勝ちたいと思わせるような仲間意識を醸成する機会が少ないのではないか
という風に仮説を立てられます。
例えば、固定メンバーで長く活動するチームが圧倒的に少ないのがそれを証明しています。上位勢と呼ばれる人たちも、大会ごとにメンバーを変えるのが一般的になっており、仲間意識の醸成とは程遠い現状と言えます。
モチベーション理論とスプラトゥーン界に足りない要素のまとめ
ここまでを整理すると、スプラトゥーン界に足りないものは
- チーム競技としての楽しさを啓蒙していく存在
- チームのモチベーションを高めるための下記の3つの要件を満たした仕組み
- (チームで目指せる質の高い目標がある)
- (チームで目指せる魅力的な報酬のある目標がある)
- (チームの仲間意識を醸成する機会がある)
であるという風に表現できます。
ここまでが、2年間で私がたどり着いた考察です。
このフレームワークに当てはめて、必要な要件を満たしたサービスを作っていくというのが、2021年の私とアタリメ団の方針となります。
既存のファクターの再評価
ちなみに、これまで様々な取り組みを見てきた中で、上記の評価基準に基づいて既存のファクターを再評価してみます。
ツキイチリーグマッチ
月に1回、指定された2時間以内での最高リーグパワーを目指し、上位3チーム+ランダムで1チームの合計4チームが公式アカウントで表彰されるという取り組みです。
まず、この取り組みがあるおかげで「有名配信者がツキイチリーグマッチに挑戦している様子などを配信する」という効果があり、「チーム競技としての楽しさを啓蒙していく存在の増加」に効果的であると言えます。
ただし、「目標が適度に困難である」という要素において、世界ランキング3位以内に入れる可能性があるチーム以外は該当しなくなります。
報酬は十分に魅力的ですが、たった2時間を共にするだけで参加できる仕組みなので、チームの仲間意識を醸成するような取り組みもほぼ皆無と言っていいでしょう。
つまり25点ずつで評価するなら、
- チーム競技としての楽しさを啓蒙していく存在 25点
- チームのモチベーションを高めるための下記の3つの要件を満たした仕組み
- (チームで目指せる質の高い目標がある) 世界ランキング50位以内の人以外にとっては0点
- (チームで目指せる魅力的な報酬のある目標がある) 25点
- (チームの仲間意識を醸成する機会がある) 0点
という感じで、50点程度の施策になっています。
報酬は「公式からの表彰」という非常に魅力の高い設定になっていますが、それがあるからこそ、上位3位以内に入ること以外の魅力的な目標を設定しづらく、結果としてスプラトゥーンプレイヤーのほぼ10割にとっては質の低い目標(=適度な困難ではない目標)になってしまっています。
平たく言えば、ほぼ10割のプレイヤーは「どうせ3位以内なんて入れないから頑張る気がしない」となるという事です。
リーグマッチの順位付けシステム
リーグマッチにチームで挑戦すると、リーグパワーと順位と獲得メダルが表示されるというシステムです。
これは、スプラトゥーンの公式アプリから確認できたり、ゲーム内の導線からチェックできたりします。
この施策に関しては、時間帯を選べば100位以内に入れる可能性はそこそこあるので、適度な困難と感じる対象は広がります。
ただし、ツキイチリーグマッチのように「この月はこの2時間だけがチャンス」という風な期間設定が存在しないため、やはり目標の質は低くなってしまっています。
さらに、報酬も「アプリでパワーと順位がこっそり公表されるだけ」なので、十分に魅力的とは言えないレベルです。せいぜい、自分でスクリーンショットしてツイッターにアップして自慢して5人くらいからいいねをもらうくらいでしょう。
つまり25点ずつで評価するなら、
- チーム競技としての楽しさを啓蒙していく存在 0点
- チームのモチベーションを高めるための下記の3つの要件を満たした仕組み
- (チームで目指せる質の高い目標がある) 期間設定が存在しないため10点程度
- (チームで目指せる魅力的な報酬のある目標がある) 魅力は低いため5点程度
- (チームの仲間意識を醸成する機会がある) 0点
という感じで、15点程度の施策になっています。
根本的には、報酬の魅力が低いと他のほとんどが機能しなくなるのが分かります。
リーグマッチの順位付けシステムは、報酬の魅力が低いので取り組む側のそもそものモチベーションが低く、それゆえに仲間意識の醸成や楽しさの啓蒙などにも繋がっていません。
逆に言えば、この「リーグマッチの順位付けシステム」を改良し、
- 目標に期間設定がある
- 報酬を魅力的にする
- 仲間意識が醸成される仕掛けがある
という3つの要素を追加すれば、ほぼ100点の施策に近づけることができるはずです。
現在、アタリメ団の中ではこれを
改良版リーグマッチ格付けシステム
と位置づけ、システムの開発に取り組んでいるところです。
2021年2月中には、アタリメ団の中で限定リリースできると思います。
スプラ甲子園
年に1回、全国からエントリーしたチームが出場して日本一を競うスプラトゥーン公式の大会です。
これに関しては、
報酬の魅力が高い上に多様化している
というのが大きな特徴です。
優勝チームは非常に大きな報酬があるのはもちろん、
- 抽選で当たって出場できる
- 会場で特別な体験ができる
- オンラインの放送に出演できる
- 1回戦で勝ちあがったらチーム紹介やインタビューがある
など、報酬の種類が多いため、目標の質も高くなっています。
- 年に1回という期間の限定性
- 1回戦突破などの分かりやすい目標
- 抽選やマッチング運による適度な困難さ
- 報酬の多様性による魅力の高さ
- 練習期間の存在によって必然的にチームの仲間意識も高まる
など、ほぼすべての条件において完璧と言えます。
ただし、報酬の魅力が「圧倒的なリソース投下」によって成立しているため、再現性が低く、抽選で落ちた時点で1年間の目標が何も無くなってしまうという難点があります。
逆に言えば、スプラ甲子園の要素を取り入れた、運営リソースが低くて再現できるレベルのローカル大会が増えれば、スプラ甲子園の開催頻度の穴を埋めることができるという事です。
ウデマエ無制限のローカル大会
ローカル大会はスプラトゥーンでも様々な大会が開催されています。
その中で、「参加資格を問わない=ウデマエ無制限」のローカル大会は全てが
適度に困難ではない=目標の質が低い
という風に断言してよいと思います。
参加できるウデマエを無制限にした時点で、世界ランク上位のプレイヤーが毎回参加してくるからです。
上位のプレイヤーほどスプラトゥーンに費やしている時間も精神も多くなるため、ウデマエ無制限の大会はほぼ100%そういうプレイヤーに発見されます。
そして、無制限大会は「参加しているチームの中で一番うまいチームと戦える範囲内のチーム」にしか、勝利のチャンスは無くなります。
つまり、ツキイチリーグマッチと同じようにほぼ10割のプレイヤーは「どうせ優勝圏内なんて入れない(というか1回も勝てない)から頑張る気がしない」となるという事です。
実力を無制限にした時点で、参加者の中でトップのチームの周辺しか「適度に困難」になりません。そして、世界ランク上位の人間ほど時間をスプラに膨大に割いているので参加してくる可能性が高く、必然的に
ウデマエ無制限大会は世界100位以内くらいの人間しか楽しめない(質が高い目標にならない)
という現実があります。
ちなみに、私はXになりたての頃にウデマエ無制限の大会に出場して、リスポーン地点から1歩も出れずに大会が終了しました。
その2年後に、X2500帯くらいになって再度ウデマエ無制限の大会に出場しましたが、ほぼ1回も攻撃ターンにならずに終了しました。
私の感覚としては、「多摩川の社会人サッカーの大会に出たつもりが、バルセロナが出場していた」という感じでした。
世界で100人しかチームスポーツとして楽しめないのが、ウデマエ無制限の大会の現実と言っていいでしょう。
イラストや賞金をプレゼントなどの取り組みも行われていますが、目標の魅力をいくら高めても、そもそも「構造上、ほぼ10割の人間にとって質が低い目標になってしまう」という部分が改善されないと、意味が無いどころか逆効果です。(この辺もツキイチリーグマッチと同じです。特定の報酬の魅力を高めるほど、それ以外の目標を設定しづらくなるからです。)
ウデマエ制限のローカル大会
スプラトゥーンのプレイヤーは販売本数から1200万人ほどいると計算できるので、そこから世界トップの100人を除いた
1199万9900人
を救うべく、現れているのが「ウデマエ制限システムのあるローカル大会」です。
これは、参加する段階での実力に制限をつけるシステムを採用することで、およそ同じような実力の人しか参加できないようにした大会です。
ウデマエ無制限大会の問題は、1チームでも世界ランカーが紛れ込むと、その他すべてのチームとの実力が離れすぎてしまい、「現実的な努力で優勝が手に入らないため、目標の質が低くなる」というものでした。
そこで、そもそも参加者の実力をある程度揃えてしまえば、全員にとって「現実的な努力によって優勝が手に入る=目標の質が高くなる」という状況を作れるのではないか?というのが、ウデマエ制限大会の考えです。
この考えは、一定量は機能していると言えます。
実際に私も、アタリメ団の中で「S帯以上限定」のローカル大会を2年間開催してきました。この大会では、参加チームの実力がそもそも同じくらいになるようにしてあったため、
- 全参加者にとって、目標が適度に困難である
- 年に4回だけ開催し、優勝すると年末のチャンピオンリーグに残留と目標の具体性が高い
- 決勝トーナメントの配信やプロ実況者のアサインなど報酬が魅力的
- 1か月間のチーム準備期間を創ることで仲間意識を醸成する
など、かなり良質な大会運営ができました。
しかし、2年間やってきたからこそ、ウデマエ制限大会には大きな問題点があることも分かりました。
ウデマエ制限大会の問題点:実力はそもそも正確に計測できない
最も根本的な問題はこれです。
ウデマエ制限大会は簡単に言えば、参加チームの実力を揃えることで、すべてのチームにとって「優勝という目標が現実的な努力で手に入る状態」にするという施策です。
しかし、この施策には残念ながら「そもそも実力というのは正確に計測できない」という根本的な矛盾が存在しています。
ウデマエ制限大会でも、「ガチマッチのウデマエ」という基準を採用しているケースがほとんどですが、このシステムでは
ガチマッチを真剣にやっていないけど、実際にはめちゃくちゃ実力がある
というケースには全く対応できません。
- 参加チームの実力が揃っているから
- 全チームにとって目標の質が高くなり
- モチベーションが上がる
という構造にも関わらず、大前提となる「参加チームの実力を揃えるための正確な計測システムはこの世に存在しない」という根本的な欠陥を抱えているわけです。(実際に、アタリメ団内の大会でも「サーモンランやナワバリガチ勢をどう扱うか?リーグパワーをどう加味するか?」などで相当悩みました。)
さらに言えば、そもそも実力というのは「所属するチームの雰囲気・持ち武器・当日の体調や気分」などの外部要因でも大きく変動します。
悪意を持ってサブ垢で参加するユーザーがいた場合、どうやって本当の実力を証明させるのか?という問題も根本的には解決できません。
ウデマエ制限システムは、そもそも「本当の実力」などという存在しないものを証明させなくてはいけないという「悪魔の証明」問題を抱えており、構造的に完全な欠陥があるのです。
ウデマエ制限大会の問題点:参加者が構造的欠陥のせいにできる
そして、構造的な欠陥が存在しているからこそ、参加者は負けた責任を「構造的な欠陥のせいだ」という風に認識できてしまいます。
- あのチームには実質X帯の人がいたんじゃないか
- サーモンランを2000時間やってるんなら、それはX帯と同じでしょ
これらの意見は、事実かどうかが重要なのではなく、
人間というのは自分以外に責任を探す生き物であり、構造的な欠陥がある以上かならずその部分に目が行ってしまう
という事を言っています。
そもそもウデマエ制限大会の目的は、
参加者に「頑張って大会に出場し続けて、チームで優勝を目指して努力し続けよう」と思ってもらう
ことです。
しかし、そのための施策である「ウデマエ制限」というシステムが根本的な欠陥を抱えており、そして大会にはどれだけ伯仲しようが「必ず敗者が出る」せいで、出場者に
- もう一度出場して頑張ろう
ではなく
- 構造的な欠陥のせいで勝てないんでしょ
- 構造的な欠陥をハックすれば勝てるじゃん
という方向に考えさせてしまいます。
これでは本末転倒です。
ウデマエ制限大会の問題点:参加者が限りなく狭い範囲に限定されてしまう
上記で説明してきた構造的な欠陥だけでも、もはやウデマエ制限システムは本来の目的を達成できない欠陥品だと言っていいでしょう。
そして、もし上記の欠陥が奇跡的に補えた場合。
つまり
- 参加者全員がガチマッチをメイン武器で同じ集中力や同じ真剣さで取り組んでいるから
- ガチマッチのウデマエ制限によってほぼ正確に全員のウデマエを計測できており
- 結果として大会中の全試合が実力伯仲の熱い盛り上がりを見せ
- さらに参加者全員が性善説に基づく聖人ばかりで敗北を大会の構造欠陥のせいだと全く考えなかった
という条件が満たされた場合においてのみ、大会の満足度は高くなり、参加者のリピートも増え、結果としてスプラトゥーン界に
「チームで目標を持って努力する体験ができる機会」
が1つ提供されることになります。
ただし、「特定の実力帯の人しか参加できない」という前提においてのみです。
正確ではありませんが、スプラトゥーンにおけるウデマエの人口分布は下記のような構造になっていると考えられます。
https://wiki.denfaminicogamer.jp/Splatoon2/%E3%82%A6%E3%83%87%E3%83%9E%E3%82%A8
では、改めてですが
- 参加チームの実力が揃っているから
- 全チームにとって目標の質が高くなり
- モチベーションが上がる
というウデマエ制限システムの考え方だと、どのような実力の揃え方をするべきでしょうか?
例えば参加資格を「X帯2300以下」にしたとします。その大会に、全体の90%以上を占める「S帯以下のプレイヤー」は参加できるでしょうか?
では、「S+以下」にしたらどうでしょう?その大会に全体の85%以上を占める「A帯以下のプレイヤー」は参加可能でしょうか?
では逆に、「B帯以下限定」の大会を開催することは可能でしょうか?その段階の人で、どれくらいの割合が自主的にチームを組んだり大会に参加したりしているでしょう?
こう考えると、ウデマエ制限システムがものすごく限られたウデマエ帯の人たちしか対象にしづらく、スプラトゥーン業界全体で考えると90%以上を置き去りにしてしまう施策だということが分かります。
実際に、アタリメ団の中で開催していたウデマエ制限システムの大会も、回を重ねるうちに「実力を揃えるために下限をS帯以上」という風にせざるを得なくなりました。
そうなると、自然と「X2500以上の人は参加しづらい」という風になっていき、結果として「S帯~X2200以下の人」の限定大会のような感じに行きついてしまい、A帯以下の最も人口帯の多いプレイヤー層と、鍛錬を重ねて実力を伸ばしたトッププレイヤーの両方を置き去りにしてしまいました。
大会参加者の実力を揃えることで目標の質を高めるという施策は、このように大量の欠陥を抱えているのです。
どうすれば良いか
さて、ここまでは既存の仕組みや大会についての評価を行ってきました。
ほとんどの施策が、問題を大きく抱えている欠陥状態だというのが分かったと思います。
では、どうすれば良いか。
原点に返れば、そもそもですが
- 見ている側がチーム戦って楽しそう!って思える
- 参加してる人が下記の5つを満たした質が高い目標が設定できる
- 期限と達成することが具体的である
- 適度に困難で現実的努力で達成できそうである
- 自分たちで目標を自主的に設定できる
- 目標の達成具合がフィードバックされる
- 目標を達成した時に報酬が魅力的である
- 参加してる人が、チームでの仲間意識が醸成される
上記を満たせればよいわけです。
スプリーグという取り組み
ここで、現実に実行されている取り組みとして、スプリーグというサンプルを取り上げたいと思います。
実は、スプリーグという取り組みは上記の要件をすべて満たした、おそらくスプラトゥーン界でも初の画期的なローカル大会になっています。
詳細は是非こちらのスプリーグ公式のアカウントをご覧ください。
スプリーグの画期的なところは、中長期のリーグシステムとリーグ間の昇降システムを採用したことです。
この施策の本質は、参加チームがそれぞれ自分たちの目標を設定し、その目標に向けて努力できるようにしたこと、つまり
- 報酬の多様化
- 目標の分散化
です。
従来の「1つの大会に1つの優勝チーム」という「報酬が1か所しかない状態」を脱却し、参加した各自が自分たちにあった目標を設定できるようにしてあるのです。
さらに、リーグが昇降することによって、目標に対しての報酬も適度に魅力的に設定してあります。
試合結果も即時フィードバックされ、順位表が公表されていたり、他にも中長期的な取り組みがゆえに、仲間意識や参加者同士の交流も活性化しやすくなっています。
さらに、注目の試合は配信を行うなど、報酬の設計がそのまま見事に「チーム戦の楽しさを啓蒙する」という役割に繋がっています。
全体の設計が良く、ほぼ完璧な施策と言えます。
現段階では、スプラトゥーンがチームスポーツになっていくとしたら、スプリーグのその先に未来があると私は考えています。
必要な要素
では、改めてここまでを参考にしながら、今後
- 「チームで目標に向けて真剣に努力するという体験=チームスポーツとしての体験」を
- できるだけ多くのスプラトゥーンプレイヤーに体験してもらう
という目標を達成するために、何が必要か?という要素を整理していきたいと思います。
達成するために一定期間以上の継続的なチーム活動が必要な目標
まず、こちらは確定で良いでしょう。
仲間意識というのは、一定量以上のコミュニケーションが無いと発生しません。
加えて、投資したものが多くなるほど「失いたくない」という感情がわいて人間は本気になります。
そういった「目標へのチーム単位での時間の投資」を強制的に増やす仕組みがあれば、必然的に仲間意識が発生して、真剣に努力するようになるはずです。
練習すればするほど、「どうしても勝ちたい」となるものです。
これに関しては、アタリメ杯という大会で2年間かけて検証済みです。
良い実装例
- 開催ルールを限定する(1ルールに指定されている競技だと、事前に準備がしやすくなります)
- 大会本番のステージを絞る(参加する前に対策やステージ練習などの準備がしやすくなるので、チーム単位での時間投資が増えやすい)
- 定期開催や1か月程度前の事前告知(次回の開催日が1か月前とかに分かっていると、チームでの事前準備がしやすくなる)
- 大会や競技期間自体を長期化する(そもそも参加期間自体が長くなると、必然的にチームでの時間投資が増える)
目標と報酬の分散化
こちらも確定で良いと思います。
目標の質を高めるためには、参加者にとって「適度な困難」である必要がありますが、スポーツで目標を「優勝」の1つに絞ってしまうと、優勝が狙える範囲内のチームしか現実的な目標が持てなくなります。
その回避方法は、前述してきた通り「目標を1つに固定して、参加者の実力を揃える」方法よりも、「参加者がそれぞれ自分たちなりに目標を設定できるようなシステム」を創る方が圧倒的に効果的です。
そうすれば、参加者を統一せずに広く募集できるようになり、構造的な矛盾も解消できます。
ただし、それぞれの目標において、報酬がある程度魅力的である必要があります。達成しても全く魅力がないものを目標にするチームはいません。目標を分散化しつつも、それぞれの目標を達成できた時に一定以上の魅力を感じる報酬が発生するようにする必要があります。
良い実装例
- MVPやベストポジション等の個人賞の導入(チームで勝つ以外の個人という単位の目標を導入することで、目指せる目標の種類が増える)
- 配信や特集による注目度の提供(一定の条件を満たしたら、試合をライブ配信するなどで注目されやすいようにしてあげることで、目標の種類が増える)
- チーム間の関係性構築によるライバル関係の創造(あのチームに勝ちたい、あの人に負けたくない、などの人間関係ができると、各自に明確な目標が設定されやすくなる)
- リーグ昇降システムや総合ランキングなどの位置関係の提示(勝つか負けるかだけではなく、全体の中で何位にいるかなどの相対的基準値を増やした方が多様な目標を設定しやすい)
- 目標の希少化や期限設定による具体化と魅力向上(年に1回だけとか挑戦できる回数が少ない方が報酬の希少度が上がって魅力も高まる)
そもそものチームを結成する機会
ここまでほぼ議論してきませんでしたが、そもそものチームを結成する機会をもっと増やす必要もあります。
この場合、ウデマエや実力というよりは「一緒に長期間チーム活動ができるくらいに気が合う仲間」を見つけるのが難しいという課題がありそうです。
例えば大会や競技を見つけてから、「この大会に出たいから仲間募集!ウデマエ●●以上で!」などとツイッターや掲示板で無差別に募集を行ったとしても、集まらないか、集まったメンバーが「一定期間以上のチーム活動に耐えられない」可能性が高いでしょう。
オンラインはコミュニケーションをうまく取るのが難しく、さらに競技である以上は結果が出ない時期も必ずあるからです。(ちなみに私は大学時代、ラクロス部の主将とヘッドコーチまで務めましたが、オフラインで毎日集まる競技でもチームビルドはめちゃくちゃ苦労しました)
そういったチームビルドのハードルをクリアするためには、やはり
「特定のコミュニティ内で一定期間以上、様々な関わり合いやリーグマッチでの疑似チーム体験を繰り返す中で、長期活動に耐えられるチームメイトを見つける」
という工程がどうしても避けられそうにありません。
事実、アタリメ団には200名以上のメンバーが在籍していますが、その中で4人チームが数十チーム結成されています。
コミュニティ内での大会情報の交換なども活性化しやすいため、明らかに「チームビルドにはコミュニティの受け皿が効果的」だと言えます。
良い実装例
- コンセプトや属性でセグメンテーションされたコミュニティ内でチーム結成を促す
- 規約やトラブル回避が徹底している精度の高いマッチングサービスを用意する
2021年アタリメ団に実装するもの
さて、これで最後になります。
ここまで整理してきた内容に基づいて、アタリメ団と私が2021年に挑戦していく内容について具体策を記述します。
企画段階のものが大半なので、今後変更する可能性は高いと考えてください。
アタリメフェスティバルの開催
これまで「アタリメ杯」として開催してきた大会を
アタリメフェスティバル
と名称を変更し、3か月に1回、年に4回開催していきたいと思っています。
アタリメ杯はこれまで基本的に「全チームが優勝という単一目標を目指す」という方向性で運営してきましたが、2021年からは報酬と目標の分散化を目指していくため、フェスティバルという名称に変更予定です。
アタリメフェスティバル(スプリング/サマー/オータム/ウィンター)
みたいなイメージで季節ごとに開催します。
- チーム単位のエントリー
- 3週間の開催期間
- 事前提出リーグパワーで所属リーグ分け
- 1weekごとにリーグ間の昇降戦(昇降戦は毎週末に生放送)
- 3week終了時点で最終順位が確定して終了
- 個人賞・エキシビションマッチ・weeklyダイジェスト・最終リーグ優勝・特集誌発行
などの方針で開催予定です。
チームランキングシステムの実装
アタリメフェスは3か月に1回なので、普段からチーム戦を推奨していくために別途「チームランキングシステム:アタリメランクマッチ」を開発・実装します。
これは、リーグマッチに挑戦した記録を競う競技システムで、
- リーグマッチに挑戦したら専用フォームから結果(パワー・順位・日付・メダルの色)を登録
- 各月ごとのリーグパワーがランキング形式で公表される
- 累積のベストスコアと達成チームもランキング形式で公表
- 個人単位でのベストスコアや単月での最高スコアも確認可能
など、チーム単位でも個人単位でも目標を設定してリーグマッチに取り組みやすくする仕組みになっています。
さらに、
- 月初の放送でランキングを振り返ったり表彰する
- メンバー募集システムを実装してチームを組みやすくする
などの工夫も行っていく予定です。
この「アタリメランクマッチ」システムに参加することで、大会のような1発勝負のガチ競技ではないけど、ゆるく1か月間単位で目標を持ってチームで活動ができるようになります。
ここで気の合うメンバーや、波長や編成が嚙み合ったチームが見つかったら、そのチームでアタリメフェスにエントリーしてもらうようなイメージです。
メール配信システムとチュートリアルの実装
最後に、メール配信システムの実装です。
メール配信では、入団後に
- 定例会への出席を促すお知らせ
- アタリメランクマッチに参加するように促すお知らせ
- アタリメテレビの配信のお知らせ
- 大会のお知らせ
を定期で行っていきます。
まずは定例会でボイスチャットやディスコードの使い方を覚えたり、チーム戦まではいかなくとも、味方と声を掛け合ってプレイする楽しさを経験したりしてもらいます。
そこである程度雰囲気が分かったり、話したことのある人が増えてきたら、次はリーグマッチに参加してもらえるよう誘導します。
リーグマッチは最初は即席ランダムチームでの参加が多くなると思いますが、それでもアタリメランクマッチに名前が載ったり、パワーが更新できたりと小さな達成感を味わえるようになっています。
その後、アタリメテレビでランクマッチの表彰などを見てモチベーションを高めてもらい、メンバー募集システムを使ってチームを結成または加入してランクマッチに挑戦するように促していきます。
これでチームスポーツ体験をゆるく味わってもらった後に、外部大会やアタリメフェスへのエントリーを促し、大会で最終的なAHA体験である
「チームで目標に向けて真剣に努力するという体験=チームスポーツとしてのユーザー体験」
に到達します。
その後は、面白さを実感したユーザーは自主的にチームを組んだり、大会に出たり、大会を企画したりなどを行うようになるという流れです。
上記のような考察と、それに基づく方針と機能実装で、2021年は運営していく予定です。
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