がくちょうです。
今日はこれまでのプレイヤー育成の経過を整理していきます。
※考察期間について
4月から7月末までの4か月間をテストのためのクローズドβと位置づけ、ACYというスプラトゥーンプレイヤーの育成に特化したチームを運営してきました。現時点でのおよそ3か月強の期間を考察範囲とします。
実現したいこと
私が実現したいことはシンプルで、
技術(スキル)にフォーカスして練習できるプレイヤーを増やすこと
です。
スプラトゥーンはどうしてもすぐに「結果」だけに目が行きがちになります。しかし、誰でも本質的には分かっているように、構造的には「自分の技術が伸びたことによって ⇒ 結果が良くなる」という順番になっています。
ウデマエを上げたり、大会で優勝したりするためには、当たり前ですがその前に「技術」を伸ばさなくてはいけません。
逆に、「技術=できること」が増えていないのに、大会に何度も出場したり、ウデマエ更新に何度も挑戦したりしても、それは「次こそは当たるかもしれない」と言ってパチンコ台の前に座り直すのと同じ行為です。
もちろん、組み合わせの運で偶然、本当に「当たる」かもしれません。(不戦勝が続いたり、弱い相手とばかり当たったり)
しかし相当な低確率でしょうし、再現性もない、ただの「ラッキーパンチ」です。
そんな実力の伴っていない「偶然一発当てただけの称号」を目標にして、何百時間も何千時間もパチンコ台の前に座り直すように、ガチマッチを続けているプレイヤーが何百万人もいるのがスプラトゥーンの現状です。
なぜこうなってしまうのか
このように「技術」ではなく「結果」ばかりにフォーカスして、多くのプレイヤーがギャンブル中毒のようなプレイスタイルになってしまうのには理由があります。
その理由が、
ゲームとスポーツは正反対の性質を持っているから
というものです。
簡単に言うと、「ゲーム」というのは「時間をいかに無駄に潰すか」という指向性を持っています。楽しくて一瞬で大量の時間が無くなってしまう事こそが、ゲームの存在意義であり、目的であるわけです。
それに対して、「スポーツ」というのは「時間をいかに効率的に使うか」という指向性があります。24時間という限られた条件の中で、1人でも多くのプレイヤーより上に登っていかなくてはいけないからです。
そして、スプラトゥーンの最大の問題は「ゲームとして始めたのに、いつのまにか願望だけがスポーツになっている」という部分なのです。
あなたがもし今、「少しでも上手くなりたい、ウデマエを上げたい」と考えているのなら、既にその思考はゲームではなく「スポーツ(競技)」の領域に踏み込んでいます。
しかし、そうやって願望や気持ちの部分だけスポーツ化したのに、実際の行動が「ゲーム」のままなのです。
もしスポーツなら、「時間をいかに効率的に使うか」という視点に切り替えなくてはいけません。無駄を削り、最も効率よく上達するための密度の濃い練習を行わないと、限られた時間で他者より上にいけないからです。
でも、ほとんどの「気持ちだけスポーツ」のプレイヤーが、何の課題意識もなく、何も考えず、ただなんとなく座って、なんとなくプレイし始めてしまう。
なぜなら、スプラトゥーンという器の方がそもそも「ゲーム=時間をいかに無駄に浪費させるか」という目的に沿って作られているからです。
誤解を恐れず言えば、何も考えずにスプラトゥーンをそのまま楽しもうとするほど、競技として上達しづらいようになっていると言ってもいいでしょう。
競技者のための支援機関を創る
もちろん他のほとんどのスポーツも、最初はみんな「ゲーム」に近い感覚でスタートすることが多いと思います。
ボールを蹴る前から「競技者として成長したい」と思うサッカープレイヤーは少ないでしょう。
しかし、仲間内で遊びでボールを蹴っていた少年が、いつしか気持ちや願望が「競技者」に変わっていき、
「俺、本気でサッカー上手くなりたい。誰よりも!」
と言い出したら、その後はクラブチームに入るとか、強豪校の部活に入るとかして、
「競技者を育てるための環境」
に所属することになります。
そのまんま、河川敷で友達とボールを蹴っていても「楽しく時間を過ごす(ゲームする)」ことはできても、「効率的に時間を使ってスキルを最大化する(スポーツする)」ことはできないからです。
ゲームとスポーツは明確に反対の存在であり、どちらを取るかで全く別の環境が必要になります。
そしてスプラトゥーンでは「気持ちが競技者になった人」を支援するための、「競技者を育てるための環境」が全く整備されていません。むしろスプラトゥーン側が「できるだけゲームさせよう」としてくるので、どれだけ「気持ちが競技者」になっても、ずるずる何度でも河川敷に呼び込まれてしまいます。
ここを振り切って、所属プレイヤーが
「効率的に時間を使ってスキルを最大化する(スポーツする)」
事ができるようになる、そういう支援機関としてACYを構築していきたいと考えています。
実際にやったこと
さて、次に上記の「実現したいこと」のために、実際に私が「やったこと」を整理します。
- どう練習密度を高めるか
- どう練習密度を維持するか
- どう練習モチベーションを維持するか
- どう技術を体系的に伝達するか
- どう技術の習得状態を効果的にフィードバックするか(適切な課題を設定するか)
- どう体系化できない技術を身につけさせるか
の順で紹介します。
練習密度を高めるために、練習への取り組み方を固定し、全員で「公開スキルノート」に記していくシステムを導入
練習前と練習後に、今日の練習テーマや自分が習得するべきスキルを全員の前で言語化させることで、安定して「スキルにフォーカスした練習時間」を確保させるシステムです。
- 「自分は今、これが課題で、今日はそのためにこんなテーマや意識を持って練習に取り組む」
- 「今日はこれを意識して、こんな練習に取り組んだ。何ができるようになって、どんな改善点が見つかった」
そういった内容を、練習前と後に全員に必ず書かせて、全員の見えるところ(公開スキルノート)に提出してもらっています。
これは、正直に言って作業としては結構面倒なものですが、やるとやらないで練習密度に大きな差が出ることを自分自身も強く実感しました。
他のスポーツのように「特定のスキルを磨くための専用の練習メニュー」がある環境なら、メニュー自体でスキルにフォーカスさせられるので必要性はもっと薄いと思います。
しかしスプラ自体が「ゲームさせよう」という意思のもと、1戦ずつに勝敗を強く意識させる仕様になっているため、この「公開スキルノートシステム」が無いと一瞬でスキルではなく結果に意識を引っ張られてしまいます。
「楽しいからいいじゃん!河川敷でみんなで夢中でボール追い掛け回そうぜ!」と1試合ごとに誘惑してくるスプラトゥーンに抵抗するためには、この「公開スキルノート」のシステムは非常に重要でした。
実際、私もしばらく本システムに取り組まない期間ができてしまった途端に、勝敗に一喜一憂している自分に戻ってしまったのを感じて、恐ろしさすら覚えました。
書く内容やタイミングなどの微調整はしても、根本的にこの「公開スキルノート」はACYの基幹システムとしてオープンβでも実装予定です。
練習密度を維持するために、2人1組になって練習に取り組ませる「ペア練習」のシステムを導入
公開スキルノートのシステム自体は、ちゃんと取り組めば非常に効果が高いものだと確信をしましたが、そもそも「1人だとまともに取り組めないのではないか」という風に考えていました。
実際に自分でも、ガチマッチを行う際に公開スキルノートを実践してみましたが、まぁ見事にグダグダになりました。
簡単に言えば「相互監視」が必要という話で、スポーツとして取り組むのはやはり精神的につらいところがあります。
ついダラダラやりたくなる、ついゲームの方に引っ張られてしまう、それは他のスポーツでも起こりえることで、無駄をそぎ落としてスキルにフォーカスし続けるのは、それくらい本来は精神的な負荷が大きい行為という事です。
野球の強豪校がやっている練習メニューがいくら効果的だからって、自分1人で3年間同じクオリティで続けられる人は誰もいないでしょう。
「チーム」「仲間」「練習相手」などのメンバーの支えがあるから、きつい練習も乗り越えられる、精神的につらい作業も実践できる、というのが本質的にあるわけです。
そこで、クローズドβでは「2リグ練」「プラベ練」の2つの練習システムを導入。同じレベルの相手と毎月ペアを組めるシステムを作り、ペアになった相手とは各自で都合を合わせて、2リグで練習を行う「2リグ練」を軸に展開し、練習回数を補うために「プラベ練」も定期開催する形式を獲りました。
これに関しては、見事に成功と失敗を両方しました。
成功した部分は、そもそも「ペア練習」のシステム自体の方で、やはり2人1組になって練習に取り組むことで、集中力の維持や言語化の促進など、予想通りの効果を得ることができました。
失敗の方は「2リグ練」を中心にする部分です。
細かいUXになってきますが、やはりシンプルに練習時間を固定し、そこに集まるスタイルの方がUXとして理解しやすいし、結果として練習時間を担保しやすいと感じました。
2リグは時間を選べないため、予定の調整で疲れてしまうイメージですね。それよりは、プラベ練を中心に練習曜日と時間を固定して、安定してそこで全員が集まったほうがよほど練習効率が高いです。
そのため、オープンβではプラベ練を中心にして「ペア練習」を実践していくイメージに修正予定です。
実力を計測していくために、毎月の2リグパワーを記録していくシステムを導入
練習の質を高めるのは重要ですが、そもそも「何のために上手くなるのか」をどう設定するか?という問題もありました。そもそもの練習モチベーションの維持についてです。
これに関しては、毎月の2リグ最高パワーを競い合うシステムを導入。
最初は毎月の末に数日間のパワーチャレンジ日を設けましたが、途中から計測を常態化させてみました。
これは「練習の成果を発揮する場所を、どこにどう創るか」という問題であり、これ以外にも様々なパターンがあると思います。
3になってシステムが変わる可能性も高く、今のところオープンβでどう設計するか決定はしていません。
ただ、大きな方針としては
- ゲーム本体の計測システムを、メンバーで合同で取り組む形で使用して、実力を発揮させる場所とする
- ACY内での独自の対戦システムを構築して、実力を発揮させる場所とする
の2つを実装していくことになると思います。
練習のハードウェアとソフトウェア
ここまでの
- 練習密度を高める
- 練習密度を維持する
- 練習モチベーション自体を維持する
という施策については、どちらかというと「練習のハードウェア部分」という取り組みです。
ルールやレギュレーションによって、練習の質が自然と高くなるような「構造」を目指して取り組んできました。
それに対して、ここからは「練習のソフトウェア部分」に関する取り組みになります。
言い換えれば、これまでの部分は「どう教えるか・どう育てるか」についてで、ここからは「何を教えるか・どこに向けて育てるか」という内容についての話です。
例えばここまでだと、
「うちは名門のサッカークラブです。うちでは生徒がペアになって練習したり、毎日練習ノートを付けさせたり、紅白戦をしたりして、練習の質を高めています。」
と言っただけです。
「良い環境ですね!で、具体的にどんな練習メニューを行って、どんな選手を育成しているんですか?」
という話になりますよね。ここからは、その話です。
技術の体系的な伝達のために学習マップを制作して提供
まず、技術を体系化するにあたって、そもそも「ガチエリア」の上達に絞りました。
そして、ガチエリアの上達について
- キャラクターコントロールスキル
- カウントコントロールスキル
の2つの軸に分類し、それぞれを
- リザルト
- 打開/被打開回数
という指標によって「スキル度合いを計測」できるように設計。
さらに、
- キャラクターコントロールスキルの内訳を
- キルを増やす
- デスを減らす
- ロールを実践する
- ロールを使い分ける
という4つに分解し、
- カウントコントロールスキルの内訳を
- 初動を制する
- 混戦を制する
- 打開を制する
- 抑えを制する
という4つに分解しました。
これによって、技術の全体像を把握させ、自らが何に取り組むべきかをイメージできるようになる、という考えでした。
これに関しては、概念としては相当上手くできているように感じましたが、実装やUXという観点では大きく改善の余地がありそうです。
言い方を変えると、「理論的によくできているから、普及するわけではない」という感じでしょうか。
例えば先ほどの名門サッカークラブが、「サッカーとは攻撃と守備に分かれています。そして攻撃はさらにこの4つに分かれており・・・」なんて説明を始めたら、ほとんどの選手はうまく理解できないでしょう。
もちろんそれらは、より細かい指導や育成を行う際には重要なのですが、それらを統合的に表現する概念や方向性がないと、技術を体系的にまとめていくことができない気がします。
サッカーで言えば、
- うちはトータルフットボールを目指しています
- うちはカウンターサッカーを目指しています
- うちはハイプレスサッカーを目指しています
など、監督ごとに「サッカー哲学」と呼ばれるものが存在したりしますが、そういうイメージですね。
このような「ガチエリア哲学」を、どのような形で構築し、また普及していくのか?という点については、現在進行形で検討中です。
まだ未決定ですが、現段階では「ロール概念」というものを、クラブ戦術や育成方針の「統合概念」として持ってくるのはどうか?という案が上がっています。
ロール概念は、
- ガチエリアでの役割を6つに分類し
- 自分がいつどの役割をどれくらい担うことで、チームにとって最も有利な状況の創出に寄与できるか?という視点でプレイする
という考え方のことで、私が独自に開発したまさに「ガチエリア哲学」と呼べるものになっています。
この概念の採用メリットは多く、特に
- 1つ1つの細かいプレイではなく、ゲーム全体を通して自分のプレイを「ロール」というフィルターを通して俯瞰して捉えるようになる
- 状況に応じて最適な選択肢が変化するという事実を、「ロール」というフィルターを通して理解・実践しやすくなる
- 味方や敵の武器種や動きなどを観察し、相対的に自分のやるべきことを判断するというPVPの基礎的な思考が「ロール」という概念を前提にすると身に付きやすい
などの、「客観的に自分のプレイがどうあるべきかを評価する際の軸ができる」という効果が大きいと感じています。
そして、それらを共通の概念で共有することによって、例えばですが
- 今の試合は、どのロールを意識してプレイしていたの?
- そもそも君は、このロールの方が性格的にも向いているのでは?
- この試合なら、どのロールをどれくらい意識してプレイするべきだった?
などのように、具体的な行動やフィードバックにも素早く落とし込めるようになります。
そのため、オープンβではこの「ロール概念」を中心にスキルの体系化を再実行し、教本やメニューやアドバイスやスキルチェックなどの、全ての指導モデルの中心に設置しようと思っています。
技術の習得状態をフィードバックし、適切な課題を自己設置させるために相談会を実施
技術をうまく体系化できたら、それを自己採点したり、最適な課題を自己設置できるようにアシストする仕組みも必要だと考えました。
これに関しては、妙案が浮かばず、とりあえず「相談会を開催する」という人力の解決方法を実施してきました。
ただ、ある程度の「系統学習的なカリキュラム」を用意してしまうという手段もあるかと思います。
特に低いレベルのプレイヤーには、常に感じますが「サブジェクト学習」が最も効率よく育成するシステムになりがちです。
例えばですが、ステップ式のサブジェクトと、サブジェクトのクリアを評価できるシステムをセットで用意して、初心者や中級者くらいまではそちらを基本線に取り組んでもらうとか。
で、上級まで到達した(サブジェクトをクリアし終わった)プレイヤーに関しては、そこからさらに応用的な部分として、サブジェクト型よりは大幅に抽象度が高い課題に移っていってもらうようなシステムが理想です。
これにより、プレイヤーによる相互コーチングの形態を維持することがある程度可能になると良いなと思っています。
ただ、これに関してはどちらにしろ前述した「ロール概念を中心とした育成フィロソフィーの再構築」とセットで行う事になりそうです。
体系化できない技術を身につけるために、対抗練のシステムを導入
今回のクローズドβで導入したシステムについては、これが最後です。
最後に、そもそも「技術として言語化や体系化できないような繊細な技術群」をどうやって身につけさせるか?という課題に取り組みました。
結論から言うと、「高いレベルで揉まれれば、勝手に身につくのでは」という仮説のもとに、高い水準で安定してプレイできる「対抗戦」という練習方法を推奨する形を取りました。
しかし、これに関しては完全に蛇足だったと判断しています。
対抗戦というのは基本的にチームプレイになるため、個人技を磨くという感覚のACYの運営とは少しずれてしまったからです。
あくまで、ACYでは「チームメンバーが固定されていない状態で、個として最大のパフォーマンスが出せるようになる」というのを最終ゴールに限定するべきだと感じました。
「どのロールも理解でき、実践でき、そしてそれらの引き出しの中から、与えられた状況に応じて最適の選択肢を常に引き出し続けることができるプレイヤー」
これが、ACYの指導の果てに目指す姿であり、たとえ固定チームを組んで活動をしていたとしても、上記の「究極の個」に向けた取り組みは、チーム練習と同時並行的に行っていくべきだと考えています。
これからやること
では最後に、上記を踏まえてこれからやっていくことについて整理していきます。
① 2リグ練と対抗練を廃止し、プラベ練の固定練習を中心に練習ルールを再構築
開催の不安定な2リグ練と対抗練を廃止し、プラベ練を中心に練習ルールを再設計します。プラベ練は、希望者が集まったら開催ではなく、基本的に毎回全員参加する形に変更します。
② 2リグは実力を発揮して計測する場所とし、固定ペア無しで随時計測可能に
ガチマッチの計測よりも優秀な「最高2リグパワー」を、個の実力の目安として計測対象に設定します。面倒なペアの組み分けを無くし、臨時募集のみで2リグパワーの更新を目指してもらい、ランキングなどで公開してモチベーションに繋げます。
③ ロール概念を中心に、課題やサブジェクトを作り直す
ステップ式のサブジェクトとクリア基準値を作成し、取り組みやすくて自然とロール概念について理解できるような初級課題群を生成します。
そこから発展する形で、中級向け、上級向けの課題群を設計し直して公開します。
④ コーチングのフォーマットを生成してトレーニングを行う
プレイヤー同士による相互コーチングが可能になるように、コーチングのフォーマット自体を生成して、トレーニングを通じて実用可能な状態に落とし込みます。
以上4点の実行が、目下の目標となります。
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